[情報] 緒方恵美の、銀河で、ホエホエ。vol.43

作者: OGATA (HARUKA)   2005-10-20 12:43:13
◆◇ 「 緒方恵美の、銀河で、ホエホエ。」 ◇◆   2005年09月23日発行
                  vol.43「“へぽ組”トップ(組長)!」~後編
 (前編からの続きになります。そちらを先にどうぞ)
 しばらくして、何の気なしに買ったある雑誌に、彼女のインタビュー記事が載ってい
た。
 どうやら宝塚を引退されることになったようで、それに伴ってのものらしい。
 印象的な舞台を折角拝見させて頂いたのに、その後やっぱり触れていなかった私は情
報を
知らず、辞めてしまうのか、と少しがっかりしながら紙面をめくり、驚いた。
 インタビュー途中でマネージャーらしい方が渡したスケジュールを見て、血相を変え
た彼
女が、記者の方に訴えかけたというのだ。(言葉はうろ覚えです、スミマセン)
 “こんなスケジュールじゃ、(同じ組の子達は)みんな死んでしまう。
  配慮をしてくれないんです。みんながかわいそう・・・!”
 本当にビックリして、思わず雑誌を落としかけ、慌てて拾って読んだことを覚えてい
る。
 なぜならその日も、私は、(当時所属していた事務所で)訴えていたばかりだったか
らだ。
 “(アイドル的扱いの)新しい方面の仕事について、事務所がもっと理解しようとし
てく
  れなければ、みんな死んでしまう。
  先輩方にも逆に迷惑をかけてしまうし、これから来る子達も、かわいそう・・・!

 ちょうど、時代の狭間の変換期で、声優業界も揺れ動いていた時期。
 同じ事務所にいらした、以前、やはり変換期にトップを走っていた先輩方に、事務所
で会
った時、呑み会の時・・・折あるごとに声をかけて頂き、教えられていた。
 “その時代に一番大きな事務所の、一番売れている人間が言わなければ大変なことに
なる
  ターニングポイントというのがある。言わなくてはならないよ。
  業界のために、後輩達のために、お前自身の未来のために。
  例えそれで、一部に、嫌われたとしても・・・”
 事務所は劇団ではないし、ひとの面倒を見るべき所ではない。ひとによっては、お節
介と
思われることもあるだろう。だからうまくやっていこうと思ったらフツウの会社組織と
同様、
余計なことは言わない方がいいのだ。
 けれど、実践して来られた先輩方の言葉は重く、胸を打たれた。
 先輩達の功績を想い、自分の今、おかれている現状を思った。
 迷った。だけど・・・。
 そして私は、自分の意志で、私なりの提言をしていくことを決めたのだ。
 これからこの業界に来る、後輩達のために。
 一緒に歯を食いしばって頑張ってくれている、現場担当のスタッフのために。
 そして何より、自分自身のために。
 ある意味、とても傲慢だったと思う。
 でも、それを決めた時の私は、たぶん、トップスターのような気持ちだったのだ。
 「へぽ組」、とかの(笑)。
 天海さんのような、本当のトップじゃなかった。
 みんなに支えられ「組」を背負っている、そんな親分じゃない。
 ただ、一生懸命だった。それだけは確かだ。
 さらにしばらーく経って事務所も辞め、マイペースで仕事を始めた頃、やはり何かの
拍子
に手にしたファッション雑誌で、天海さんの記事を見かけた。
 パラパラとめくって、びっくりして、そして、思わず笑ってしまった。
 そこには、彼女の将来の夢、というのが書いてあったのだ。
 「豊かな老後」
 私はデビュー当時から、将来の夢は? と聞かれるたびにこう答えてきていた。
 「素敵な(豊かな)ばあちゃんになること」
 宝塚を出て大手芸能事務所に入っている天海さんと、個人事務所で、マイペースに仕
事を
している私。
 取り巻く環境は、天と地ほどにも違うのに。
 やはり、どこかが、似ているのかもしれない。
 その後ある番組のレギュラーに入った時、当時の事務所の某マネージャーと一緒にな
った。
 私が辞める1年前くらいに入ってきた若手だが、誠実で、機転も利いて実力もあり、
今、
たくさんの役者やスタッフに慕われ、尊敬を集めている存在だ。
 多忙な彼はなかなかスタジオに来れず、たまにいる時には、収録の合間にバカ話をし
たり
して交流を深めていたのだが(笑)、その番組であるイベントに出た時、楽屋の廊下で
ふと、
彼とふたりきりになる瞬間があった。その時。
 “やっと一緒に仕事が出来て、今日、お客さんに接する緒方さんを見て、思いました

  あの頃、僕が一緒にひとつでも仕事をできていたら、絶対・・・と。
  あなたが辞めた後も、今も、あの頃あなたのすぐ下にいた連中は、あなたの話をし
ます。
  彼らの話を聞くと、僕も熱くなる。僕達の中に、あなたがいます。
  あなたが残してくれたモノは、今も事務所の中で育っている。ありがとう”
 すべての力が抜けそうになって、思わず、天井を見た。
 そっか、ありがとうというのが精一杯で、「出番ですよ」と呼ばれてから慌てて、お
互い
ガンバロウ、と握手して、舞台に飛び出した。
 彼とその話をしたのは、それが最初で最後だった。
 ココロが豊かなおばあちゃんになる道程は、遠い。
 いろんな行程を通過しなくては、たどり着けない。
 ホントになれるのか?
 思うことはいっぱいあるけれど、仕事だけでなく「ひととして」、後悔しないように
歩い
てゆけば、いつか、着けるかもしれない。
 思っても見ないところで聞けた言葉や、思わぬ時にもらったキモチなんかを抱えなが
ら、
そして、同じ方向を見据えながら歩いてゆくひとたちの頑張りや、それに注がれる賞賛
を聞
いて自分のことのように喜んだりしながら、自分だけの道をゆっくり踏みしめるのは、
悪く
ない。
 ゆっくり、マイペースで。
 いつか。

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